真夏の日本海沿いを歩き続け疲労のたまった芭蕉は、元禄2年7月27日(陽暦1689年9月10日)山中温泉に足を踏み入れ、長逗留して疲れを癒しました。山中温泉は古来より多くの湯治客で賑わい、当時は「総湯」と呼ばれる共同湯を中心に、まわりに宿泊用の旅館が集まっていました。山中温泉の総湯は、芭蕉の句にちなんで菊の湯と呼ばれ、男湯のみ。女湯はすぐ近くの山中座にあります。芭蕉が宿泊した泉屋の主人はまだ14歳の少年でした。実際は、その叔父で俳人の自笑が宿を切り盛りし、芭蕉を招いたのです。彼の才能を高く評価した芭蕉は、自分の俳号「桃青」から一字をとって桃妖という俳号をあたえました。
山中や菊はたをらぬ湯の匂ひ芭蕉
行き行きて倒れ伏すとも萩の原曾良
今日よりや書付消さん笠の露芭蕉
よもすがら秋風聞くや裏の山曾良
庭掃きて出でばや寺に散る柳芭蕉
芭蕉が歩いた道のりに、森村誠一&おくのほそ道再生委員会が光を当て、現代、そして未来に残したい名勝地を‘名蕉地’と名付け、ベスト100景をセレクトしました。

芭蕉道を訪れた旅人たちにおすすめの宿、周辺地域で楽しめる体験型プログラムをピックアップしました。より充実した芭蕉道の旅のプランニングにお役立てください。
石川県・山中温泉
石川県・山中温泉
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湯治のあとに待っていた曾良との別れ
鶴仙渓の緑陰を行く。同行いただいた医王寺のご住職とともに
小松の宿を出発した芭蕉は、多太神社に立ち寄ったのち、山中温泉へ向かいます。なお「おくのほそ道」では、山中温泉へ向かう途中に「那谷寺(なたでら)」へ寄ったことになっていますが、実際には山中温泉に8日間逗留したあと、いったん用事を果たすために小松へ戻る途中に那谷寺を訪れています。
山中温泉に着いた芭蕉は、酷暑のなか越後路を歩いてきたこともあり、疲れがたまっていました。また、曾良の体調がすぐれないこともあり、長逗留をして旅の疲れを癒したのです。その名湯を詠んだのが「山中や菊はたをらぬ湯の匂ひ」です。滞在中は医王寺に参拝したり、大聖寺川沿いの鶴仙渓(かくせんけい)、道明ヶ淵(どうめいがふち)の散策などを楽しんでいます。ここで芭蕉は大きな別れを迎えます。小松へいったん戻る芭蕉に対し、体調のよくならない曾良は、親戚のいる伊勢の国へ向かうことになったのです。「今日よりや書付消さん笠の露」と詠み、別れを惜しんだ芭蕉。笠に書き付けた「同行二人」の文字を消そうか……別れの痛切さが伝わってきます。
清流と緑陰のなかを散策
鶴仙渓
滝、淵、奇岩などで構成される鶴仙渓。変化に富んだ光景が続く
2009年に初めて設けられた川床。天然の涼を実感
「芭蕉の館」の2階にて。芭蕉ゆかりの品の鑑賞の合間に
2009年7月6日、前日より石川県地方の芭蕉の足跡を辿り始めた森村誠一師匠一行は山中温泉へ。加賀市商工観光課の方と医王寺のご住職に出迎えていただき、大聖寺川沿いに広がる鶴仙渓へ出向きました。梅雨の止み間、夏空が広がる暑い日でしたが、渓谷沿いへ降りると鬱蒼とした木々が影をつくり、川から涼やかな風が吹き抜けます。途中、この春オープンしたばかりの川床でひと休み。冷製抹茶しるこをいただきながら、涼を楽しみました。続いてユニークなS字型の橋・あやとりはしを渡り「芭蕉の館」へ。明治中期の宿屋古建築を再整備した建物は、廊下はじめ各所に漆塗りを用いた風情ある佇まい。芭蕉関連の品等を鑑賞しました。
芭蕉ゆかりの品と対面
医王寺
朱塗りの多宝塔が目印の「医王寺」。参道からは山中温泉街が見下ろせる
医王寺の展示室にて。芭蕉の忘れ杖としてつたわる一品を前に
その後、山中温泉の総湯である「菊の湯」の斜め前にある、芭蕉の逗留先であった「泉屋」の跡を訪ね、「医王寺」へと向かいました。医王寺は、山中温泉街の西側、薬師山の高台にある真言宗のお寺。山中温泉を発見した行基の開創と伝えられ、日本三大薬師のひとつで、いにしえより、湯治の客はここに参り、自らの療治を祈ったそうです。本堂より展示室へと通していただき、「芭蕉の忘れ杖」として伝わる品などを見せていただきました。

森村誠一(もりむら せいいち)
1933年埼玉県熊谷市生まれ。青山学院大学卒業後、10年間のホテルマン生活を経て作家活動に入る。『高層の死角』(第15回江戸川乱歩賞受賞)、『腐蝕の構造』(第26回日本推理作家協会賞受賞)、『人間の証明』(第3回角川小説賞受賞)『悪魔の飽食』『コールガール』など数多くのベストセラー作品を著し、本格派推理小説の世界で不動の地位を築く。作家活動40周年にあたる2003年には、第7回日本ミステリー文学大賞を受賞した。
近年は、新たな表現として“写真俳句”の創作、普及にも力を注いでいる。
公式HPアドレス http://www.morimuraseiichi.com/
森村誠一写真俳句館 http://www1.tategaki.jp/morimura/













